先に、いちばん正直なところを書きます。「婚約指輪はいくらですか」と聞かれたとき、世の中で言われている平均額をひとつ挙げることはできます。でもそれは、あなたの答えにはなりません。婚約指輪の金額は、ダイヤモンドのグレード・地金の種類と量・デザインと加工・どこで買うかという4つの要素で決まります。どこにどれだけ寄せるかで、同じ「婚約指輪」でも金額はまるで変わる。この記事では、手作り婚約指輪の工房として、金額が何でできているのかと、予算をどう決めればいいのかを整理します。

平均額で答えない理由と、「給料3ヶ月分」の話
婚約指輪の平均額は、いくつもの数字が世の中に出回っています。出典をたどれるものもあります。ただ、平均を知ったところで「では自分はいくら出せばいいのか」という問いは、ほとんど解けません。
そのうえで、平均額そのものが判断材料として弱い、という話をさせてください。婚約指輪は、価格の幅が極端に広い商品です。石のないシンプルなリングもあれば、大きなダイヤをのせたものもある。これだけ散らばったものを一列に並べて平均を取ると、真ん中あたりに「誰も買っていない数字」が浮かぶことがあります。平均は、分布の代表とは限らないのです。
もうひとつ、根強い通説があります。「婚約指輪は給料の3ヶ月分」。これは、由来をたどると広告のコピーにいきあたります。ダイヤモンド・オンラインの記事によれば、1970年代にデビアス社が広告代理店と組み、日本市場に向けて展開したプロモーションの中で使われた言葉です(出典)。
「間違い」だと切り捨てたいわけではありません。長く語り継がれた言葉には、それだけの説得力があったということでもあります。ただ、それはあなたの家計から出てきた数字ではない。給料が同じでも、貯金も、これからかかるお金も違います。ここから先は構造の話をします。
婚約指輪の金額を決める4つの要素
婚約指輪の見積りが動く理由は、大きく4つに分けられます。
- ダイヤモンドのグレード(石があるなら、ここがいちばん大きく動きます)
- 地金の種類と量(プラチナか、ゴールドか。そして何グラム使うか)
- デザインと加工(石の留め方、表面の仕上げ、刻印など)
- どこで買うか(ブランド料、店舗運営費、流通の段数)
「高い婚約指輪」と「安い婚約指輪」があるのではなく、この4つの配分が違うだけ——そう考えると、見積りの読み方が変わります。ひとつずつ見ていきます。

① ダイヤモンドのグレードは「4C」で表される
ダイヤモンドの品質は、GIA(米国宝石学会)が定めた国際基準「4C」で表されます。カラット(Carat・重さ)、カラー(Color・色)、クラリティ(Clarity・透明度)、カット(Cut・輝きを左右する研磨の質)の4つです。
- カラット:重さの単位です。1カラット=200ミリグラム(0.2g)と国際的に決まっています
- カラー:無色に近いほど高く評価されます。GIAのスケールはDから始まりZまで
- クラリティ:内包物の少なさ。GIAのスケールはFL(フローレス)からI3まで11段階
- カット:プロポーションと仕上げの評価。最高評価はエクセレント
価格への効き方には、ひとつクセがあります。カラットは、重さが2倍になれば価格も2倍、という増え方をしません。大きな原石ほど産出が少ないため、重さが増すにつれて1カラットあたりの単価も上がる傾向があります。「予算を2倍にすれば石も2倍」とは考えないほうがいい。
逆に言えば、カラー・クラリティを最上位から少しだけ下げると、見た目の印象を大きく損なわずに金額が動くことがあります。特にクラリティの内包物は、肉眼では見分けがつかない範囲があります。カタログの記号だけで判断せず、実物を見比べて決めてください。
② 地金の種類と量
石の下にある「輪」の部分です。プラチナかゴールドか、そして何グラム使うかで金額が変わります。細く薄く作れば地金代は下がり、しっかりした太さにすれば上がる。ここは物理的な話です。そして、相場の影響をまともに受ける部分でもあります(次の章で書きます)。
③ デザインと加工
石の留め方(爪の数や形)、輪のライン、表面の仕上げ、内側の刻印。手数がかかる加工ほど費用は加わります。逆に言えば、予算の調整をいちばん無理なくできるのがこの層です。地金を削って細くするより、加工をシンプルにするほうが、耐久性を守ったまま金額を動かせます。
④ どこで買うか
同じような仕様でも、買う場所によって金額は変わります。ブランドの広告費、店舗の運営費、流通に何社関わっているか。それらは価格に含まれます。「どこかが不当」という話ではなく、何にお金を払っているかを知ったうえで選びたいという話です。
金相場の高騰は、石以外の部分にも効いています
ここ数年で、地金の値段は大きく変わりました。田中貴金属工業が公表している年次データによると、金の年間平均小売価格(税抜)は2020年の1gあたり6,122円から、2025年には17,302円へ。およそ2.8倍です(出典)。
婚約指輪はダイヤモンドに目が行きますが、輪の部分は貴金属です。この上昇は、そこにそのまま効いています。「以前見た金額より高い」と感じるとしたら、お店が上乗せしたからではなく、素材そのものが上がったからである場合が多い。私たちも、かつてはペア10万円台でご提供できていた結婚指輪が、現在はペア30万円〜が目安になりました。
数字そのものは、お伝えできます。リクルートブライダル総研「結婚マーケット調査2025」(本編67ページ)によると、婚約記念品として指輪を用意した方の費用は平均43万8000円(n=258)でした。ただ、この調査で目を引くのは平均ではなく散らばり方のほうです。最も多い価格帯は30万〜40万円未満で18.7%、いっぽうで10万円未満が10.7%、100万円以上も9.0%を占めています。つまり「みんなが同じくらいの額を出している」のではなく、上から下まで広く散っているのが婚約指輪です。平均の43万8000円に近い金額を出した人は、実は多数派ではありません。
ちなみに結婚指輪のほうは、同じ調査(本編72ページ・n=289)で2人分のセット価格が平均32万1000円、最多価格帯は20万〜25万円未満で19.4%。婚約指輪より平均が低く、散らばりも小さいのが特徴です。結婚指輪の内訳は手作り結婚指輪の値段にまとめています。
金額の目安だけ先に知りたい、という方へ。
見積りシミュレーターなら、地金代と加工費を分けた概算をその場で出せます。来店の前に、数字だけ確かめておくこともできます。相談だけでも大丈夫です。
予算は「他人の平均」ではなく、ふたりの状況から決める
では、いくらに決めればいいのか。平均から降りてくるのではなく、自分たちの状況から積み上げる方法をおすすめします。順番はこうです。
- これから出ていくお金を先に並べる:結婚指輪、式や会食、新生活の準備、引越し。婚約指輪はその全部の中のひとつです
- 貯金から「これは動かさない」額を先に抜く:生活の予備費です。ここに手をつけない範囲が、無理のない上限になります
- 残りの中で、婚約指輪にどれだけ寄せるか決める:この数字は他人の平均とは一致しませんが、それでいいのです
- 相手が身につける場面を想像する:毎日つけたい人と、特別な日だけの人とでは、選ぶべき方向が違います。ここを外すと、金額に関係なく「使われない指輪」になります
そして、決めた予算はお店にそのまま伝えてください。隠したまま見積りを取ると、話が噛み合わないまま時間が過ぎます。伝えたほうが、どこに寄せるかを一緒に考えられます。
「いくら払ったか」より「何にいくら払ったか」
私たちが大事だと思っているのは、金額の大小より内訳が見えているかどうかです。
100&1では、見積りを「制作基本料・地金代・加工費」の3層に分け、単価×数量ですべて開示しています。今日の相場だと地金代はいくらか。この加工を足すと何円か。何にいくらかかっているかが見えれば、削るところと削らないところを、ご自身で判断できるようになるからです。
幅・厚み・重量まで書くのにも理由があります。価格の数字だけを見せる方法だと、細く薄くして金額を合わせることもできてしまう。私たちはそれをしないと決めているので、その根拠として数字を出しています(料金と素材)。
見積りをもらったら、次の3つを確認してみてください。どのお店でも使える視点です。
- 石の代金と、地金の代金が分かれているか
- 地金の重さ(グラム)や幅・厚みが書かれているか
- 表示価格に何が含まれるか(刻印、サイズ直し、鑑定書は別料金か)

婚約指輪を、ふたりで作るという選択肢
最後に、私たちの選択肢も置かせてください。合わないと思ったら読み飛ばしてください。
100&1では、婚約指輪も手作りしていただけます。ふたりで原型(ワックス)を削り、長年の宝飾業界で培われた知見を持つ職人が鋳造・研磨して仕上げます。金額の面で言えば、4つの要素のうち「どこで買うか」の部分が変わります。そして何より、石やデザインを決める過程そのものが、ふたりの記憶になります。
「サプライズにしたいから一緒には作れない」という方には、プロポーズだけをサプライズにして、指輪はそのあと一緒にという進め方もあります。サイズの悩みからも解放されます。この話は婚約指輪のサイズをこっそり知る方法にもくわしく書きました。実際の仕上がりは制作事例でご覧いただけます。

なお、金額を考える前に「婚約指輪はいらない」と言われている場合は、前提から整理し直したほうが早いこともあります。その場合は婚約指輪はいらない?婚約ペンダントという選び方をご覧ください。
「婚約指輪は給料3ヶ月分」という言葉が気になっている方は、その由来と今の実態を別記事にまとめました。数字の物差しを手放すための話です。
よくある質問
婚約指輪の相場はいくらですか?
リクルートブライダル総研「結婚マーケット調査2025」では、婚約記念品として指輪を用意した方の費用は平均43万8000円(n=258)でした。ただし最多価格帯は30万〜40万円未満(18.7%)で、10万円未満から100万円以上まで幅広く散らばっています。平均に寄せる意味はあまりありません。金額を決めるのは、ダイヤモンドのグレード、地金の種類と量、デザインと加工、どこで買うか——この4つです。この構造から逆算するほうが実用的だと考えています。
「給料の3ヶ月分」は本当に必要ですか?
必要という決まりはありません。この言葉は、1970年代にデビアス社が日本市場向けに展開したプロモーションのコピーとして広まったと報じられています。長く語られてきた言葉ですが、あなたの貯金やこれからの出費とは無関係の数字です。ご自身の状況から積み上げるほうが、あとで無理がありません。
予算を抑えたいのですが、どこを削るのがいいですか?
順番としては、まず加工の内容、次にダイヤモンドのグレード(特に肉眼で差の出にくいクラリティなど)です。逆におすすめしないのは、地金を細く薄くして金額を合わせることで、変形や強度に関わります。ご予算をお聞かせいただければ、削らないほうがいい部分を守りながら案をお出しします。
なぜ最近の婚約指輪は高く感じるのですか?
素材そのものが上がっているためです。金の年間平均小売価格(税抜)は2020年から2025年でおよそ2.8倍になりました(田中貴金属工業)。ダイヤモンドに注目が集まりがちですが、輪の部分は貴金属です。数年前の感覚のままだと、高くなったように感じるはずです。
婚約指輪と結婚指輪、両方作れますか?
どちらも手作りしていただけます。同じ工房で作ると素材や仕上げの方向をそろえやすく、重ねづけのバランスも相談しながら決められます。
「婚約指輪はいくら?」という問いに、私たちは平均額でお答えできません。でも、「何にいくらかかるのか」なら、全部お見せできます。金額を決めるのは、世の中の相場ではなく、おふたりが何を大事にするかです。予算のご相談や、見積りだけのご依頼も歓迎します。まずはLINEで、気軽にお声がけください。

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