先に、結論を書きます。婚約指輪を「給料3ヶ月分」にする決まりは、ありません。この言葉の由来をたどると、1970年代のダイヤモンドの広告キャンペーンにいきあたると言われています。法律でも伝統でもなく、もとは宣伝のコピーだった——という説が有力なのです。そして今、実際に買われている金額は、ひとつの「相場」に集まってなどいません。10万円未満から100万円以上まで、驚くほど広く散らばっています。この記事では、手作り婚約指輪の工房である私たち100&1が、この言葉がどこから来たのか、いまの実態はどうなのか、そして「何ヶ月分」という物差しのかわりに何を使えばいいのかを、順番に整理します。

「給料3ヶ月分」は、誰が言い始めたのか
まず、由来から。この数字は、誰かの家計から生まれたものではなさそうです。
よく語られる通説はこうです。1970年代、ダイヤモンド大手のデビアス社が日本で展開した広告キャンペーンのコピーが「婚約指輪は給料の3ヶ月分」だった、と言われています。当時の日本では、婚約のしるしにダイヤモンドの指輪を贈る習慣そのものが、戦後に広まったばかりの新しいものだったとも言われます。「3ヶ月分」というフレーズは、その習慣を後押しした宣伝文句だった、というわけです。
この説には、興味深い続きがあります。同じ趣旨のキャンペーンでも、国によって月数が違ったと言われているのです。ある国では「1ヶ月分」、別の国では「2ヶ月分」。もしそうだとすると、「3ヶ月」は人類共通の真理ではなく、市場ごとに設計された数字だったことになります。そう考えると、この言葉の見え方が、少し変わってきませんか。
正直に添えておくと、由来には諸説あり、当時の広告の一次資料を私たちが確認できたわけではありません。だからこの記事では「〜と言われている」という書き方を通します。ただ、どの説を採るにしても、共通することがひとつあります。この言葉は、守るべき決まりとして生まれたものではない、ということです。
それでも半世紀にわたって語り継がれてきたのは、この言葉がよくできていたからだと思います。覚えやすくて、「これだけ出せば恥ずかしくない」という安心の物差しにもなった。迷っている人に、基準はやさしく響きます。だから、信じてきた誰かを笑う話ではありません。ただ、あなたの家計から出てきた数字ではない。それだけは、はっきり言えます。
では今、実際にいくらで買われているのか
数字を見てみましょう。リクルートブライダル総研「結婚マーケット調査2025」(本編67ページ)によると、婚約記念品として指輪を用意した人がかけた費用は、平均43万8000円(n=258)でした。
「ほら、やっぱり3ヶ月分くらいじゃないか」と感じた方は、もう少しだけ続きを。この調査でいちばん見てほしいのは、平均ではなく散らばり方です。
| 価格帯 | 割合 |
|---|---|
| 10万円未満 | 10.7% |
| 10万〜20万円未満 | 14.1% |
| 20万〜30万円未満 | 17.2% |
| 30万〜40万円未満 | 18.7%(最多) |
| 50万〜60万円未満 | 14.1% |
| 100万円以上 | 9.0% |
※同調査の結果から主な価格帯を抜粋
最多の価格帯でも18.7%。どこにも「多数派」がいません。10万円未満で用意した人が10.7%いて、100万円以上かけた人も9.0%いる。婚約指輪の実態は「みんなだいたいこのくらい」ではなく、「人によってまるで違う」なのです。
だから、平均43万8000円を「目指すべき額」として読まないでください。平均は、散らばったものをならした計算結果であって、誰かの正解ではありません。この平均より下でも上でも、それは「ズレ」ではないのです。
もうひとつ。この調査は「いくらかけたか」を聞いたものであって、「給料の何ヶ月分か」を聞いたものではありません。つまりこの数字さえ、「何ヶ月分」という物差しとは別の場所にあります。
では、金額は何で決まるのか。ダイヤモンドのグレード、地金の種類と量、デザインと加工、どこで買うか——この構造の話は、婚約指輪の金額を決める4つの要素にくわしくまとめました。相場の中身を知りたい方は、そちらをどうぞ。

金額の目安だけ先に知りたい、という方へ。
見積りシミュレーターなら、地金代と加工費を分けた概算をその場で出せます。来店の前に、数字だけ確かめておくこともできます。相談だけでも大丈夫です。
「給料の何ヶ月分」という物差しを、手放しませんか
とはいえ、「決まりはない」「散らばっている」だけでは決められませんよね。物差しをひとつ下ろしたら、かわりの考え方が要ります。
私たちの提案は、こうです。「収入の何ヶ月分か」ではなく、「ふたりの予算全体の中での配分」で決める。
「何ヶ月分」という物差しには、構造的な無理が3つあります。
- 収入が同じでも、家計はまるで違う。貯金の額も、家賃も、この先の予定も人それぞれ。月収だけを取り出しても、出せる額は決まりません
- 婚約指輪は、単独の買い物ではない。このあとに結婚指輪があり、式や会食があり、新生活の準備が続きます。婚約指輪だけを収入に紐づけると、後ろの予算にしわ寄せが行きます
- 贈る側の負担しか見ていない。「何ヶ月分か」は出す側だけの話で、受け取る相手が何を大切にしたいかが、この物差しには入っていません
だから、順番を変えます。結婚にまつわる出費の全体をまず眺めて、その中で婚約指輪にいくら割り当てるかを、ふたりの状況から決める。婚約指輪と結婚指輪をセットで考える予算の組み方は、婚約指輪と結婚指輪の予算配分に具体的に書いています。
ひとつ、約束しておきます。私たちはここで、「今は◯ヶ月分が主流です」という新しい目安を言いません。「3ヶ月分」を下ろした場所に別の「みんなの数字」を置いたら、同じことの繰り返しだからです。目安が欲しくなる気持ちは、よく分かります。それでも、その空白に置くべきなのは、世間の数字ではなく、ふたりの事情です。


金額の物差しの外にあるもの
最後に、金額の外側の話を少しだけ。
「いくらの指輪か」という問いは、時間が経つと「どんなふうに用意した指輪か」という問いに変わっていきます。私たち100&1は、婚約指輪をふたりで手作りする工房です。原型になるワックスを自分たちの手で削り、長年の宝飾業界で培われた知見を持つ職人が鋳造・研磨して仕上げます。プロポーズをサプライズにしたい方には、プロポーズだけをサプライズにして、指輪はそのあとふたりで作るという順番もあります。ここで過ごす時間は、「何ヶ月分」の物差しでは測れないもののひとつだと思っています。
ダイヤモンドを選ぶなら、金額の前に「4C」という品質の物差しの意味を知っておくと、判断に迷いが減ります。4Cの読み方と、予算の中での優先順位の付け方は、ダイヤモンドの4Cガイドにまとめました。
見積りの話も、少しだけ。100&1は見積りを制作基本料・地金代・加工費の3層に分け、全項目を単価×数量で開示しています。金額の大小より、何にいくらかかっているかが見えること。それが、外から借りてきた物差しに頼らず、ふたりで決めるための、なによりの道具だと考えているからです。

金額の物差しから離れると、石の選び方も自由になります。無色のダイヤにこだわらないブラウンダイヤモンドという選択も、その一つです。
よくある質問
「給料3ヶ月分」は手取りですか、額面ですか?
どちらで数えるという決まり自体がありません。この言葉は1970年代の広告キャンペーンのコピーに由来すると言われるもので、家計の実態から導かれた基準ではないからです。数え方に迷ったら、それはこの物差しが合っていないサインです。収入の何ヶ月分かではなく、ふたりの予算全体の中の配分で考えることをおすすめします。
給料3ヶ月分より安い婚約指輪だと、失礼になりませんか?
金額で気持ちの大きさが決まるわけではありません。調査では10万円未満で用意した方も10.7%いらっしゃいます。大切なのは、相手が何を喜ぶかを考えて選んだ過程が伝わることだと私たちは考えています。不安が残るなら、指輪の話ができる関係であれば、思いきって希望を聞いてみるのもひとつの方法です。
いまの婚約指輪の平均額はいくらですか?
リクルートブライダル総研「結婚マーケット調査2025」では、平均43万8000円(n=258)です。ただし10万円未満から100万円以上まで広く散らばっていて、平均に近い価格帯の人が多数派というわけでもありません。金額が何で決まるかは婚約指輪はいくら?で解説しています。
婚約指輪は、いつまでに用意すればいいですか?
プロポーズの予定日から逆算します。用意にかかる期間は工房や店、内容によって変わるので、日程が決まっている場合は早めに相談すると安心です。プロポーズから入籍までの全体の段取りはプロポーズから入籍までの逆算スケジュールを、指輪を買う時期の考え方は結婚指輪はいつ買う?をご覧ください。
「給料3ヶ月分」は、半世紀前の広告から歩いてきたと言われる言葉です。それがいまだに、婚約を考える人の肩にそっと手を置いてくる。もう、下ろしてもらって大丈夫です。指輪の金額を決めていいのは、世間の物差しではなく、これからの生活を一緒に作っていくふたりですから。予算の考え方だけのご相談も歓迎します。LINEで気軽にどうぞ。
