ワックス(ろう)を削るところまでは、写真を見れば想像がつきます。けれど、その削ったろうのかたまりが、どうやってプラチナやゴールドの指輪に変わるのか。ここが空白のまま申し込むのは、少し落ち着かないと思います。
先に、順番だけをお伝えします。削る → 測る → 湯口(ゆぐち)をつける → 埋没材で固める → 焼いてワックスを溶かし出す → 溶けた金属を流し込む → 型を壊して取り出す → 湯口を切り離す → 磨いて仕上げる。この流れが「ロストワックス製法」です。名前の由来は、途中でワックスが焼き飛ばされて消えてしまうこと。英語の lost wax(失われた蝋)、フランス語の cire perdue(シール・ペルデュ)も同じ意味です。
そして、この記事でいちばんお伝えしたいこと。ふたりの手が動くのは、最初の「削る・測る」までです。そこから先は職人が引き取ります。以下、その境目を含めて、工程を最後まで順番に追っていきます。

この記事は「順番」だけを追いかけます
指輪の製法の話は論点が重なりやすいので、先に守備範囲をはっきりさせておきます。
- そもそもキャスト製法とは何かという言葉の定義は、キャスト製法とはが担当します。この記事は「手順の記録」、あちらは「言葉の説明」です
- 手作り体験の3タイプの分類(彫金・鍛造・キャスト)は手作り指輪の3つの種類へ
- 鋳造と鍛造、どちらがいいのかという比較は鋳造と鍛造へ
- その日に持ち帰れるのか、後日になるのかという時間の話は即日仕上げと後日渡しの違いへ
- 来店から受け取りまでのご案内は制作の流れに、用語の意味だけ知りたい方は宝飾用語集にまとめてあります
この記事が答えるのは、ただひとつ。削ったワックスが、何を経て金属の指輪になるのかです。
ふたりの手で進むのは、工程1と工程2です
工程1:ワックス(ろう)を削って、原型をつくる
最初の工程は、ふたりの手で行います。
なぜワックスなのか。金属より柔らかく、刃物で削れるからです。彫金の経験がなくても、輪郭を出して、角を落として、丸みを整えるところまで自分の手で進められます。削りすぎても、ワックスは溶かして盛り足すことができる素材なので、やり直しがききます。
そして、ここが肝心なところ。この段階でつくった形が、ほぼそのまま金属の指輪になります。内側の当たりの具合も、あえて残した削り跡も、あとの工程で消えるわけではありません。原型づくりは「練習」ではなく、製品そのものの設計工程です。
100&1では、この段階で文字も刻みます。ふたりで文字を刻み、2本を「対」にするのが私たちのやり方です。刻印を最後の仕上げ工程で入れる方法もありますが、ワックスに刻んだ文字は鋳造を経て金属に引き継がれます。手で刻んだ線のゆらぎが、そのまま残るということです。手書きの文字をそのまま刻むという方法と、レーザー刻印との違いは手書きの文字を、そのまま指輪に刻むにまとめています。

工程2:幅・厚み・サイズを測って確かめる
削り終えたら、測ります。ここもふたりとスタッフで一緒に行う工程です。
なぜ必要か。この先の工程には、後戻りがないからです。次の埋没に進むと、原型は文字どおり失われます。「もう少し細くしたい」「やっぱり厚みが欲しい」と言えるのは、ここが最後です。
測るのは主に3つ。ノギス(キャリパー)で幅と厚み、リングゲージでサイズ。幅と厚みは見た目だけでなく、地金の量=耐久性と地金代に直結します。細く薄くすれば軽く安くなりますが、長く使ううちに変形しやすくもなります。私たちが幅・厚み・重量を見積りに明記しているのは、この関係を隠したくないからです。
もうひとつ。金属は冷えて固まるとき、わずかに縮みます。その分を見込むのは職人の領分なので、おふたりは「この形でいいか」だけを見ていただければ十分です。
工程3:湯口をつけ、埋没材で固め、焼いてワックスを溶かし出す
ここから先は、職人の手に渡ります。設備と経験が必要な工程が続くためです。
湯口(ゆぐち/スプルー)をつける
原型に、棒状のワックスを継ぎ足します。これは飾りではなく、溶けた金属が流れ込むための通り道です。太さや位置は、形と大きさに合わせて職人が決めます。
埋没(まいぼつ)する
湯口をつけた原型に、フラスコと呼ばれる筒をかぶせ、石膏系の埋没材を流し込んで固めます。目的は、ワックスの形を型の内側に写し取ること。この時点では、まだワックスは中に入ったままです。
脱ろう・焼成する
固まった型を電気炉に入れて加熱します。すると中のワックスが溶け出し、燃え尽きて消えます。これが脱ろう。同時に型そのものを焼き固めるのが焼成で、溶けた金属を受け止められる強さを出すための工程です。
この時点で型の中に残っているのは、指輪の形をした空洞だけ。ワックスは、もうどこにもありません。ロストワックスという呼び名は、この瞬間から来ています。
金額の目安だけ先に知りたい、という方へ。
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工程4:溶けた金属を流し込み、型を壊して取り出す

鋳造(ちゅうぞう/キャスト)する
プラチナやゴールドを溶かし、空洞に流し込みます。金属が細部まで行き渡るかどうかは、湯口の設計と型の状態で決まります。
冷やして固める
流し込んだ金属が固まるまで待ちます。ここで「縮み」が起こります。
型ばらし(型出し)をする
冷えたら、型を壊して中身を取り出します。鋳型は一度きりの使い捨てです。ふたりが削った形は、世界にひとつだけの型として消えたということでもあります。
湯口を切り離す
取り出した金属には、通り道だった湯口がくっついたままです。切り離すと、ようやく指輪らしい輪の形になります。ただし表面はまだざらつき、切り口も残っています。

工程5:荒仕上げから研磨、表面仕上げ、石留めまで
鋳造から出てきたばかりの指輪は、まだ「素材」に近い状態です。ここから、身につけられるものにしていきます。
- 荒仕上げ——湯口を切った跡をヤスリで整え、輪郭のゆがみを直し、内側の当たりを取ります。着け心地の土台をつくる工程です
- 研磨——粗い番手から細かい番手へ、段階を追って磨いていきます。飛ばすと細かい傷が消えません
- 表面仕上げ——鏡面にするのか、マットにするのか、槌目などの表情をつけるのか。デザインによって手数が変わります
- 石留め・追加の刻印——ダイヤや誕生石を入れる場合は、ここで留めます。石留めなどのオプションは加工費にあたる部分で、見積書では別項目として並べます
- 最終確認——サイズと寸法、表面の状態を確かめて完成です
見積りは制作基本料・地金代・加工費の3層で、工程3から工程5にかかるのが加工費にあたる部分です。

ふたりの手と、職人の手の境目はどこにあるのか
工程を並べたので、担当を整理します。
| 工程 | 手を動かす人 |
|---|---|
| ワックス原型を削る・文字を刻む | おふたり(職人がサポート) |
| 幅・厚み・サイズを測って確かめる | おふたり+スタッフ |
| 湯口づけ・埋没・脱ろう・焼成 | 職人 |
| 鋳造・型ばらし・湯口の切断 | 職人 |
| 荒仕上げ・研磨・表面仕上げ・石留め | 職人 |
境目が「測る」と「湯口づけ」の間にあるのは、そこから先が炉と溶けた金属を扱う工程だからです。設備と経験が要る領域で、ここを分業することで、ふたりは形づくりに集中できます。
そして、この境目があるために、指輪はその日に持ち帰れません。焼成と鋳造と研磨は、削り終わってすぐに続けられる作業ではないからです。どのくらい先になるかはデザインや時期で変わるので、制作の流れと即日仕上げと後日渡しの違いでご確認ください。
ただ、職人に渡したあとも、ふたりの手の跡は消えません。削った角の丸みも、刻んだ文字の線も、鋳造を通り抜けて金属になります。手を離すことと、手の跡が消えることは別のことだと思っています。

よくある質問
ロストワックスという名前は、何が「失われる」のですか?
ワックス(蝋)です。型に埋め込んだ原型を加熱して溶かし出し、燃やして消す工程があり、型の中には指輪の形をした空洞だけが残ります。この「ワックスが失われる」ことから、英語で lost wax、フランス語で cire perdue(失われた蝋)と呼ばれています。
削った原型は、記念に取っておけないのですか?
残念ながら、原型は工程の中で完全に消えてしまいます。型に埋めて焼く段階で溶けて燃え尽きるためで、これはロストワックス製法の仕組みそのものです。ただ、形は指輪に引き継がれます。原型が残らない代わりに、削った跡がそのまま金属になる、と考えていただければと思います。
ふたりが削った形は、どのくらい正確に金属になりますか?
基本的には、ワックスの形がそのまま金属の形になります。だからこそ、削り終わったあとに幅・厚み・サイズを測って確かめる工程を置いています。冷えるときの縮みを見込むのは職人の仕事なので、おふたりは形だけを見ていただければ大丈夫です。
途中で「やっぱり形を変えたい」と言えるのは、いつまでですか?
埋没(型に埋める工程)に入る前までです。ワックスは削るだけでなく盛り足すこともできる素材なので、原型づくりの間は何度でも直せます。逆に、型に埋めて焼いてしまうと後戻りはできません。だから測って確かめる工程を、その手前に置いています。
ロストワックス製法は、ワックスが消えることで成り立つつくり方です。削って、測って、湯口をつけて、埋めて、焼いて、流し込んで、壊して、磨く。工程の名前だけ並べると無機質ですが、最後に残るのは、ふたりが手で削った形をした金属の輪です。どこまで自分たちでやりたいか、どこは任せたいか。そんなご相談からで構いません。まずはLINEで、お気軽にお声がけください。
